多様な人材育成プログラムの一環として、GCOE集中講義「数学と自然科学・社会科学 III 」を開講します。
この集中講義は2つの講義により行われ、評価はその2つを合わせたもので行う。
1つ目の講義: ”From Information Retrieval to Web Mining: a mathematical tour”(2010年10月25-26日 / Mei Kobayashi氏)
日 程 | 2011年1月7日(金)、13日(木)、27日(木) のそれぞれ 15:00〜16:30 |
講義名 | 数学と自然科学・社会科学 III |
講 師 | 木村 英紀氏 (理化学研究所脳科学総合研究センター) |
場 所 | 京都大学理学部6号館809号室 |
タイトル | 「制御理論と数理」 |
1月7日(金)「制御とは何か」
制御工学は産業革命とともに始まったもっとも古い工学の一つであるが、最近では「制御なしには機械なし」とよばれるほど、現代技術の中でのその重要性は高まっている。たとえば自動車は、エンジン、サスペンション、ステアリングなどほとんどすべての機能に高度な制御系が使われ、安全性や乗り心地の向上に貢献している。「制御のかたまり」と言っても過言ではない。他の工業製品も同様であるし、ものを作る工程でもロボットをはじめとする制御装置が省力や省エネルギーを担っている。
この講義では現代技術の進化を工学の最深部で担ってきた制御工学の歩みを概観し、科学技術の中でのその位置づけや特徴、そのなかで理論が果たしてきた役割、さらにその将来の方向を概観する。
1月13日(木)「制御工学における数理」
制御工学では制御系を設計するための制御理論が大きな位置を占めている。制御理論は工学の中で数学の果たす役割のもっとも高い領域と言われている。線形代数、微分方程式だけでなく、微分幾何学、代数幾何学、位相幾何学、関数解析、離散数学、最適化、確率過程論、統計などのかなり高いレベルの結果が、制御系の設計が直面する問題を解くために用いられてきたし、制御理論の発展の様々なフェイズで数学者が制御のコミュ二ティに加わり、問題解決に重要な役割を演じてきた。。
この講義では「制御系の安定性」「制御系の構造」「ロバスト制御」などいくつかのトピックスを選んで数学がどのように使われたかを示し、同時に数学者と制御理論家との共同研究の例を示したい。
1月27日(木)「生物と制御」
制御の広がりの例として、身近な生物における制御について述べる。生物は自律的に生きる機械であり、その活動のすべての面で制御を必要としている。「制御なくして生命なし」と言ってよい。1930年代に生まれた「ホメオスターシス」の概念は、制御と生物を結びつける指導原理となった。制御をひとつの普遍的な生命原理の発露と捉えることによって、生命に対する一つの統一的な視点が得られるだけでなく、臨床医学にも新しい進展の方向を生み出す力となる。
この講義では、生物を「個体」「臓器」「細胞」の階層に分け、それぞれのレベルにおける制御のメカニズムの実例とそれを解析する数理的なアプローチのこれまでの積み重ねを紹介する。同時に、「ホメオスターシス」の今後の発展について概観する。