リーダー挨拶

京都大学の数学系の2つのグループが申請した,「数学のトップリーダーの育成--コア研究の深化と新領域の開拓」は,2008年度から始まるグローバル COEプログラムに採択されました.この事業を通じて,数学の発展と数学を使う高度な専門家の育成につとめていきたいと思います.

日本の数学研究は世界の中で確固たる位置を占めており,20世紀における数学の発展は,日本人の貢献を抜きにして語れません.今よりも日本が貧しい時代 に,先人達が打ち立てた金字塔は,数学を学べば,多くを見ることができます.今の豊かになった日本に住む私たちは,それをいっそう深めていく必要があります.

深める,という言葉を使いました.数学の研究,特に昔からある,「コア」と我々のプログラムの副題にも含めた種類の研究には,「深さ」,がよく似合う形容詞です.現代の数学の多く分野の研究では,容易にはたどり着けない,遙かな先端あるいは深淵が問題とされています.

しかし,それらの深淵あるいは先端は,だんだん細かく煩瑣になっていき,お互いにかけ離れていく,孤立した山ではありません.たどり着いた先端どうしは, 驚くべきやり方で,突然一体化し,相互に関わります.数学という学問は,今でもお互いに一体化した,バラバラでない分野でありつづけています.

そして,現代の数学の先端は,実は現在でも,数学の世界の外と深く関わっています.

今の社会には,個々の人の経験や直感では捉えられない,複雑なあるいは巨大なものが多くあります.数学こそそこで使われる道具です.

ふつうの個人の使うお金を管理するには,それほど高度な数学はいりませんが,巨額のお金を管理しようとすると,山勘でやってはいけません.

現代の自然科学のフロンティアとなる領域は,宇宙の彼方とか,深海の底とか,巨大なエネルギーを使う加速器とか,どれも,私たちの日常体験からはかけ離れた世界で,そこでは普遍性と精密さを備えた数式が一番頼りになります.

かつてはより素朴な方法を使っていた生命科学の専門家からも,次の発展のためには,数学による概念構成やモデルが不可欠であると,聞くことが増えてきました.

それでは,数学の専門家の方では,そのような多様な要求に応える人材が多くいるかというと,今のところ必ずしもそうではありません.数学の深みはとても魅 力的で,それにとらわれた人達には,なかなか関心が外に向かいません.しかし,数学の深みは,実は開かれた深みです.次の爆発的発展は,実は,数学の外か らの思いもよらなかったところにあるのかもしれません.

高度な数学を学ぶ学生や数学の研究者が,数学の外の世界で,数学者の関わりが期待されているいろいろな事を,自然に知り,自分が進めている研究や学習と関 わらせることが当たり前のようにできる,そういう場所に,京都大学の数学系がなればいいと思います.それを実現するには,どうしたらいいか,一生懸命考え てみたいと思います.

数学と外の分野との新しい関係を打ち立てるというのは,100年単位のプロジェクトです.5年間のグローバルCOEプログラムでは,その第一歩を踏み出したい,というのが我々の目的です.

 

拠点リーダー・深谷賢治