概要 | 1982 年にD. Ruelle が “Do turbulent crystals exist?” という論文を
発表した。”Turbulent crystal” (「乱流結晶」)とは、結晶や準結晶の
ようにブラッグピークを示す規則的相ではなく、液体のように並進対称性を
持っている相でもない。つまり、並進対称性が破れているにも関わらず、
ブラックピークを示さない統計力学的相である。Ruelleの提案以降しばらく
検討されたが、そのような相は、これまで自然現象で観測されたことはなく、
数値実験で示されたこともない。乱流結晶を示す具体的な模型はあるのだろ
うか。あったとして何故自然現象で観測されていないのだろうか。
その一方、全く独立した研究動機から、理想的ガラス状態である「平衡ガ
ラス」の理解が進展してきた。特に、ランダムグラフ上の格子気体模型に対
して、平均場模型や現象論で期待されていた「平衡ガラス転移」を実際に示
せるようになった。そこで、有限の空間次元で「平衡ガラス転移」を見出す
ことが自然な次の課題であり、現在いくつかの立場から研究がすすんでいる。
実は、この二つの独立に見える未解決問題は大きく関係している。セミナ
ーでは、まず、動機と考え方と方針と現在までの結果を先に紹介する。その
後、具体的な模型構成について問題点も含めて丁寧に議論する。平衡統計力
学における模型の構築と解析が主題であるが、力学系の視点が本質的に重要
である。
参考文献:
S. Sasa,
Pure glass in finite dimensions,
Phys. Rev. Lett. 109 165702 (2012)
A. C. D. van Enter,
Aperiodicity in equilibrium systems: between order and disorder,
ArXiv 1310.0267[math-ph]
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